2010年1月4日月曜日

地球と生命/その進化  はじめに


「何かテーマを決めて本を読むことは楽しいことですね。」と言われる方が古希を迎えられた先輩におられます。

今回“ゲストルーム”にその先輩が「地球と生命/その進化」と言うテーマで論考されてきた内容をシリーズで順次掲載していきます。論文にはこの分野の最新の知見が系統立ててまとめられています。最初読ませて頂いたとき、自分が長年関心を持っていた内容でもあり、面白くて興味深くて一気に最後まで読んでしまいました。

快くブログに掲載をお許し頂いた「荒木泰治」さん、ありがとうございます。
以下シリーズの第一回目です。
-------------------------------------------------
  <地球と生命/その進化>    荒木泰治

序 ― 宇宙の中の地球と人間 ―

“宇宙には本当に「始まり」があったのか。仮に無限の昔から今のような宇宙が存在したとすればどうだろう。当然、人類程度の知的発達を遂げた生物も数限りなくいたはずだ。宇宙探査機を打ち上げたり、宇宙に電波を発する試みも無限に繰り返されたろう。だとすると、いま宇宙が人工物体や、知的生物の発した信号で埋め尽くされていない事実こそが宇宙に「始まり」があった証拠だ―という説明が何かもっともらしい理屈である。” と言う記事が05年4月22日付の毎日新聞「余禄」欄に出ていた。

現在の天文学の通説として、今から140億年前(正確には137億年前)、ビッグバンによって現在の宇宙が誕生したとされる。この宇宙の年齢はハッブルの法則(1926年発表)を基にした最近の観測で、1メガパーセク離れた天体の離反速度が70Km/sであったという測定結果を得て計算されたものである。{注1}

ビッグバンは全ての物質とエネルギーが圧縮された火の玉となって、そこにあった素粒子の、その又基本粒子が爆発し、陽子、中性子、電子、光子、ニュートリノ等が生まれた現象である。その1秒後の温度は100億度と言われ、それから温度の低下に伴い、これら粒子から水素原子核が、そしてHe、Li迄の軽元素ができる。太陽のような恒星は水素の核融合によるHeの生成によって光っているが、温度が下がって1億度位になるとHeの核融合が起こり、そして炭素ができ、更に進んで珪素そして、鉄が生じるようになる。

このようにして宇宙の天然元素が作られた。我々の夜空に淡い輝きを放って横たわる「天の川銀河」は太陽系を含む2000億個もの星からなり、渦巻きを伴った円盤状(直径10万光年、厚さ5000光年)の星の集団であるという。宇宙にはこういう星団が他に百億以上(観測されているのは数十万個)あるとされている。

その一つの天の川銀河の中に46億年前、我々の太陽系が生まれた。そして太陽の周りの塵が集まって原始地球が形成され、その後奇跡的な進化を遂げた地球が生命を育ませ、その生命は地球上の環境に影響されながら進化を続け、人間が誕生した。地球誕生以来の歴史を1年に譬えると、アフリカに誕生したとされる最初のホモ属(原人)以来、人類の全歴史が12月大晦日の夜、最後の約3時間の中に納まるほどの短い期間しか経過していない。(1日に直せば30秒程度)

今日、人間はその発達した頭脳によって文明を謳歌しているが、その文明は地球資源の枯渇と、地球環境の変化をもたらしつつある。このままではこれまで地球上で繰り返されてきたように、種の滅亡と更なる進化が始まるかも知れない。人間の発達した英知は現人類の永続策をどのように見出せるのであろうか。

{注1}: 1パーセク(PC)は3.26光年で、1メガパーセク(MPC)は、その10の6乗倍。光速は30万Km/sで、1光年は約9.5兆Kmにあたる。

                       続く

地球と生命/その進化  その1


(From NASA、Astronomy Picture of the Day Archive)  

<地球と生命/その進化>    荒木泰治

1) 太陽系の誕生と地球

銀河系宇宙では星の誕生、死亡は日常茶飯事(30年に一度位)とされる。46億年前、その中の一つの星が死んだ。そして爆発=超新星の誕生である。
ガス、チリから成る星間雲に衝撃波が走り、そのガス、チリが集まり密度が増加、重力を支えきれなくなって収縮が始まる。その中心部では解放された位置エネルギーにより原始太陽が高温に輝き、その周囲の原始太陽星雲は自転運動をしている。このガス雲は主に水素とヘリウムから成り、扁平に広がって、円盤状のガス星雲(原始惑星雲)を形成する。

原始惑星雲は次第に冷却し、そこに鉱物粒子を析出する。析出するのは高温からカルシウム、アルミを有する鉱物、そして金属鉄、マグネシウムや鉄の珪酸塩、更に温度が下がると水、メタン、アンモニアなどが出る。これら析出物を含むチリは円盤状の赤道面に堆積し、合体、収縮(時に分裂)を繰り返して、微惑星となり、互いに衝突をしながら惑星に成長する。この惑星の形成は46億年前の1千万年から1億年間になされたと考えられている。{注2}

太陽系の惑星を分類すると、太陽に近い地球型惑星(水、金、地、火)と、遠くにある木星型惑星(木、土)、天王星型惑星(天王、海王)、それと地球型と木星型の中間に位置する小惑星群とに分けられる。これらは異なる衝突、融合、破壊のプロセスにより出来たものである。

地球型惑星では衝突速度が大きく、脆い岩石類は破壊されて、鉄・ニッケル合金が合体、成長した。この惑星は硬い岩石の地表を持ち、水星を除いては大気を持つ(金、火の大気はCO2が主)。火星内部には水もある。

木星型惑星では衝突速度が小さく、岩石も合体し、氷として存在した水、メタン、アンモニアを集めて成長した。原始惑星群を捕獲してガスに包まれている。

地球形成の機構に関して諸説が出されているが、1986年“Nature”誌に発表された東京大学松井・安部両氏の「衝突脱ガス大気形成に基づく惑星起源論」は世界の注目を集めた。

これは原始地球への微惑星の衝突(1年間に1千個位)が原始地球の揮発成分の蒸発を促し、原始大気を作ったとする考えに基づく。そのときの大気の主成分は水蒸気(80%)と二酸化炭素であった。この大気の存在が地球形成に重要な役割を持つ。

即ち、衝突エネルギーを完全に保存できるとすれば地球は1万度以上になり全部揮発しガス惑星となる。一方、大気がなければ熱は直ちに放散されて、0℃以下になるであろう。大気を得た原始地球ではこの衝突エネルギーの適度な保存によって地表は鉱物が溶けてマグマ化し、マグマの海を作った。そこでは溶融マグマと、その溶融鉱物から脱ガスされたできた大気中の水蒸気分圧がその時の温度、圧力において化学平衡する。

一方、その温度は微惑星の地球への衝突頻度とそれによって生じる大気量(保温効果)によって変化するので、マグマの海の量もそれに応じて変化する。
地球型惑星といわれる4つの惑星(水星、金星、地球、火星)の中で地球だけが何故、水惑星として生命を育むような奇跡が起こったのであろうか。

原始地球の半径が現在の45%に近づいた頃には衝突回数が減り、大気量は頭打ちをし、水蒸気量も頭打ちをしたとし、その結果、地表温度が一定化(1250℃と計算)し、マグマの海は10%程度に減少したという。そして約43億年前、地球のマグマオーシャンは完全に固化したといわれる。松井氏の計算によると、この時の大気は100気圧以上で、水蒸気大気量は1.9x10の21乗kgと計算された。この計算は微惑星の水量を1%以下と推定したものだが、この結果は現在の地球表面の水の量が1.9x10の21乗kgであることと良い一致を示している。

微惑星の衝突が減少して水蒸気大気量が安定した条件で、太陽光の透過率を考慮して地表温度を計算した結果は600Kとなる。200気圧での水の臨界温度は650Kであるから、この臨界温度以下に大気温度が下がった場合、水蒸気は雲を作り、それが水となって原始地球に雨を降らすことになる。雨が降って更に地表温度が下がれば更に雨が降る。こうして10の21乗kgの水が地表に出来て海となる。グリーンランドの地球最古の岩石の調査で、少なくとも38億年前には既に原始の海が出来ていたと考えられ、その温度は150℃位とされる。

その結果大気の水蒸気が減り、二酸化炭素が残る。海は塩素を含む酸性でCa+,Mg+,Na+を解かして中和しながら二酸化炭素を溶解する。これにより、大気量、大気圧が減少。二酸化炭素は岩石として固定されて更に減少して、原始大気の主成分は窒素となる。それからは地球自身の内部活動(プレートテクトニクス)と関連し次第に現在の大気へと変化する。そのプロセスは原始水蒸気大気が形成された経緯に比べて、その10倍以上の長い、長い期間を必要とした。

水星は太陽に近すぎて大気を持たず、鉄・ニッケル合金の塊(地球のコア部)で表面温度は400℃~-170℃。金星は最も地球に似ているが太陽との距離の差が進化を異にした。ここには大気があり、90気圧、組成は96%CO2+3%強N2(水蒸気は高温のため分解してH2が逃げ、O2は地表に入ってCO2が残った)を有する。火星は1日が24時間で季節もありその点で地球に似ている。大気圧は1/100気圧、95%CO2+3%N2+微水蒸気である。地表に酸化鉄粒子が存在し、地殻がワンプレート故に火山は巨大である。流水があったと思われる跡があるが、現在の火星表面には水はない。その水が無くなった理由については、地球に比べて、太陽との距離差、大きさの違いも指摘されているが、惑星との衝突で地表の水が吹っ飛んだという説もある。

地球だけが水惑星になりえた条件は偶然に決まったとしか言えない原始地球の大きさ、太陽との距離、原始大気の水蒸気とCO2の量比、そして“マルチプレートテクトニクス”(地殻がいくつかのプレートに分かれており、それぞれが運動する)などが挙げられている。

原始地球の大気は水蒸気200気圧、CO2が50気圧で、水蒸気の臨界温度は650Kである。大気圧がそれよりずっと高ければ地球に雨は降らなかった。地球の地盤が火星のような一枚板でなく、マルチプレートであったために大陸の移動、成長が起こり、その下のマグマ活動を引き起こし、原始地球の大気圧、大気量とその組成が決定された。

即ち、太陽系において地球だけが地表に水を持てる条件を奇跡的に有していたのであり、その水が後述の生命を育ます必須条件であったのである。

{注2}:現在の太陽系の質量の99%が太陽で、角運動量の98%以上が惑星の公転運動による。続く

地球と生命/その進化  その2


<地球と生命/その進化>    荒木泰治
2) 隕石の衝突

微惑星の衝突から形成された原始惑星に対して、未だ宇宙を浮遊していた破片や、成長できなかった微惑星が引力に引かれて惑星に衝突する。これが隕石の衝突である。40億年前は隕石重爆撃期であった。

月の形成機構にも諸説はあるが、地球に衝突した微惑星によって作られたとする説が最も有力視されている。月表面の岩石調査と月面クレーターの観察から、地球から見る月の現在の姿は46億年前から約10億年間に起こった月面への隕石衝突と、その内部のマグマ活動とによって説明される。

また、月面のクレーターを語ることは宇宙の謎解きであるともいわれる。即ち、月面の地域年代とクレーターの個数密度から隕石衝突頻度の時代推移も明らかにされた。月面の明るい部分は“高地”と呼ばれ、斜長石が多く、初期に存在したマグマの海が冷却して出来た。暗い部分は“海”と呼ばれ、玄武岩が主である。

これは隕石の衝突によって出来た割れ目からコア部のマグマが流出して出来たものとされる。高地の斜長石の年齢は38.5億年、玄武岩の年齢は38~37億年で、それ以後は隕石衝突が減ったため海の部分にはクレーターが少ないと説明される。クレーターは全ての惑星に見られ、これが隕石衝突の痕であると現在結論付けられている。{注3}

隕石には二種類あり、一つは一旦溶融した後、鉄系と岩石系とに分化したものと、もう一つは“コンドライト”と称される未分化隕石(各成分が熱的平衡状態にない)ものである。コンドライトは鉄分の量やその状態で区別され、鉄が酸化状態で、還元されておらず、その中でも炭素質なものを“Cコンドライト”と呼ばれ最も始原的な隕石である。

地球で目撃された最古の隕石落下は1492年に記録されている。それはドイツのエルザス地方エンシスハイムの隕石(50kg)。現存する最大隕石は1920年南西アフリカに落ちた60トンの“ホバ隕石”(鉄)である。


隕石は天からの贈り物として、宗教的に扱われることが多い。即ち、古代ギリシャの“聖なる石”、イスラム教のメッカ・アーバ神殿の”メッカの黒石“、福岡県直方市の須賀神社に納められている宝物”飛び石“などがある。近年、落下が観測された重要な隕石としては1969年メキシコ北部チワワ州に大音響と共に落ちた“アイエンデ隕石“(Cコンドライト)と、同年オーストラリア南東部ビクトリア州に落ちた“マーチソン隕石“(鉱物の中にかなりの量の水を含む)がある。
隕石の年代測定は長寿命放射性同位元素により行われるが、その多くが46億年±1000万年前であった。つまり、マーチソン隕石の水は46億年前の水であり、アイエンデ隕石の調査では、その中の酸素同位体(O16,O17,O18)の割合が太陽系のものとは違うことから太陽系以外の超新星爆発による星間雲から来たものと考えられ、アイエンデ隕石が超新星爆発の証言者であると松井氏は言う。

隕石の地球への衝突速度は秒速15kmと推測されている。例えば、直径30mの鉄隕石が衝突した場合、その体積の1万倍以上の岩石を吹き飛ばし、直径1200m、深さ180mの巨大なクレーターを作る。この時に走る大気中の圧縮波、地面中の衝撃波により発生するエネルギーはTNT火薬にして4~5メガトンに相当する。そして、このエネルギーの大きさは衝突する隕石の大きさによって指数関数的に増大する。

従って、このような衝突一つが地球に大規模な気候変動を与え、そこに存在していた生物に大きな影響をもたらして来た。言い換えれば、太陽系第3惑星として、水惑星である地球の形成、進化の奇跡には隕石の地球への衝突が重要な因子の一つとなっていると考えられる。

{注3}:クレーターの成因については火山噴火説との間で長く論争されてきたが、アポロ計画による月面探索と試料採取、及びNASA研究所による大型衝突実験から隕石衝突説が証明された。

地球と生命/その進化  その3

<地球と生命/その進化>    荒木泰治

3) 生命の誕生

生命とは何であり、どのようにして生まれたのであろうか?
生命の特徴は①外界から独立した空間を持ち、②代謝機能と、③自己複製機能を持つことである。代謝とは物質とエネルギーを取り込み、タンパク質を使って体を作り、エネルギーを出すこと。自己複製とは二種類の核酸(DNAとRNA)にある情報を使って同じタンパク質(子孫)を創ることである。タンパク質と核酸の分子は細胞という袋の中に入っていて生命に不可欠な分子である。

こういう生命を創りだす物質は有機物であり、無機物と区別される。その中でも重要なものはアミノ酸である。アミノ酸はメタンとアンモニアから還元性雰囲気で創られ易く、安定である。原始地球の大気は主として、二酸化炭素、一酸化炭素、水、窒素であったが、これに高エネルギー陽子(宇宙線)があたれば、アミノ酸{注4}を生成できる。

一方、前述のマーチソン隕石の分析から、そこにL体が多いアミノ酸が検出され、宇宙でできた隕石中のアミノ酸も生命創生の重要な役割を果たしていると考えられる。こうした有機物を溶解した原始地球の海(原始スープ)には水素、メタン、硫化水素、など還元ガスを含み、これに鉄、亜鉛、マンガンの触媒作用と、海底熱水噴出孔(1979年、海底深くに300℃の海水噴出孔を発見した)の熱エネルギーも加わって、化学進化が進み、タンパク質や核酸が生成、そして生命が誕生した。このように、生命誕生には多くの要素が絡み合ってはいるが、その中でも水の媒介と熱水の存在が不可欠な条件であったことは特筆すべきである。

また、生命第3の機能である自己複製機能としての遺伝子(核酸)に、現存する全ての生物が共通の要素を有していることも注目される。このことは全ての生命が一つのオリジンに基づいていることを物語っている。即ち、何億分の一の確率でしか起こらない化学反応が或る条件の下で起こり、その後、際限なく複製が行われ、そして、進化・分岐を繰り返ししていったものと考えられる。
生命の誕生時期については確証が得られていないが、地球表面層が安定した約40億年前と考えられている。世界最古の生命情報はグリーンランドで発見された38億年前の堆積岩(チャート)の岩石中の炭素の同位体比から、その炭素が生物起源の炭素と判定されたこと(化学化石)である。実物化石としては世界最古の生命化石が1983年、西オーストラリア・ノースポールのビルバラ地域にある35億年前の堆積岩で発見されている。

ここは太古代の深海にあたり、熱水活動の活発な場所であったとされ、その化石はそこに生息していたと考えられるフィラメント状バクテリア(一個の長さ0.1m程度)であった。これ以外にも有名な化石として南アフリカ東トランスバール地方の32億年前のチャートに発見された同様の微化石があり、そこには単細胞原核生物の特徴としての細胞分裂による自己複製の跡が残されている。

{注4}:アミノ酸はその分子結合の方向から左手型(L体)と右手型(D体)があり、実験室的には各同量が生成する。しかし、地球生物のタンパク質ではL体のみである。

地球と生命/その進化  その4



画像は現生のストロマトライト

<地球と生命/その進化>    荒木泰治

4) 生命出現と鉄鉱石層の形成
生命の進化過程での重要なステップは酸素発生型光合成生物ストロマトライト(シアノバクテリア)の登場である。これも西オーストラリア・ビルバラ地域南部のハマスレー盆地27億年前の堆積層から直径1センチ、高さ5センチの柱状化石の密集として発見された。

現存するストロマトライトの研究結果に基づき、この化石群が酸素発生光合成能力{注5}を持つシアノバクテリアと結論され、浅海の有光帯に作ったコロニー状の構造物であったと理解されている。このシアノバクテリアこそが世界を変えた主役であった。

この大量のストロマトライト化石の産地である西オーストラリア・ハマスレー盆地が鉄鉱石の大きな産地であることは鉄鋼業関係者のよく知るところである。又、鉄鉱石産地として有名な北米五大湖の一つシューペリア湖の南部地域にも長さ9cm、幅1mのグリパニア化石(リボン状で単体生物最大の化石)が見出されている。これら生物と鉄鉱石とはどのように結びつくのであろうか。
40億年前まで続いた隕石重爆撃期に地球に投下された大量の鉄の大部分は地球中心に沈み核として存在するが、マントルに残った鉄は溶存し、海水に多量の鉄イオンとして溶解していた。この時期は還元性雰囲気であり、鉄も酸化されることはなかった。そこに27億年前頃から太陽光の届く浅海に発生したシアノバクテリアは細胞分裂を繰り返しながら光合成反応により酸素のアブクを発生させた。

この酸素により鉄は酸化され沈殿することになる。こうして出来たのが縞状鉄鉱層(Banded Iron Formation= BIF)である。ここには珪酸系層と鉄鉱層が縞状に堆積している。BIFの堆積年代は35億年前から6億年前までの長期に及ぶが、そのピークは25~20億年前頃であった。この5億年間に大量の酸化鉄が世界中の海底に堆積したのである。これらは後の海洋プレートの活動により、主としてマントル内へ、そして一部が地表に出て、現在我々人類がそれを利用し、鉄の時代を謳歌しているのである。
(現生のシアノバクテリアー藍藻)
BIFのピークが過ぎた20億年前頃になって酸化される鉄が減少すると、大気に酸素が増加し始め、地球は還元性から酸化性へと移行してゆく。光合成で酸素を排出するシアノバクテリア自身はもともと還元性の生まれであり、それ自身の細胞内で酸化性環境への対抗策を講じなければならなかった。即ち、鉄鉱石層形成の終焉は地球上の生命が次の進化へ進む引き金となったのである。

{注5}:光合成とはバクテリア、藻類など葉緑素を持つ生物が光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水からグリコース(ブドウ糖)などの炭水化物と酸素を作り出すこと。地球の生物にとって役に立つエネルギーは全て光合成によってもたらされる。光合成なしでは全ての動物は存在できない

地球と生命/その進化  その5


<地球と生命/その進化>    荒木泰治

5) 大型多細胞生物の誕生

地球上の生命は約6億年前までは殆どが微生物(単細胞バクテリアなど細菌類)のままであったとされる。それが大きくなるきっかけは何であったのか?未だ最終結論は出ていないが、これに答えるのがハーバード大学ホフマン教授らの提唱する「全球凍結」(スノーボール)仮説である。

これによると、地球は22億年前と6億年前の二回、海も陸も全てが凍りついたという。その凍結原因は十分確立されてはいないが、微生物が関与する光合成が生み出す酸素が当時の大気中で温室効果のあったメタンガスを減少させ、凍結を招いたという。

この時、海は深さ1000m以上凍結したとされ、光合成が不可となり、大部分の微生物は死滅した。このとき、完全絶滅の危機を救ったのは、海底火山の火口付近に存在した穴の中の微生物であった。

殆ど全面の海面が凍結したことにより、火山ガスの二酸化炭素ガスは水に溶け込めず、大気に蓄積され、その保温効果で次第に再温暖化に向かった。

こうして、地球が50℃を超えたとき、全球融解が突如始まり、それを引き金にして、光合成細菌の大繁殖が始まることになる。光合成の活発化は大気の酸素濃度を激増させた。22億年前の凍結までに存在したバクテリアは一般に原核生物と呼ばれているが、その後の酸素の増加に対応して21億年前に生まれたのが真核生物{注6}である。

そして、約10億年前にはカナダの藻類化石、東シベリアの藻類などに見られる真核多細胞生物が現れ、更に、6億年前の凍結後には大型多細胞生物が誕生した。

即ち、この時に一層の酸素増加が起こり、コラーゲン(たんぱく質の接着剤)が大量生産され、これが硬骨格生物の出現を促し、生命の大型化をもたらしたと考えられている。

この時代は原生代末のベンド紀(6.2-5.5億年前)と呼ばれ、世界各地で体長1mにも及ぶ“くらげ”状の大型生物や、長さ数センチの石灰質殻、また、海綿骨針(珪酸質骨格)といった生物が出現している。

これに伴い、他の生物を捕食(肉食)する生物が出現し、感触器、運動能力(酸素呼吸能力)の発達が促される。この時代は特にV/C境界(ベンド/カンブリア境界)とも呼ばれている。

こうした地球の環境大変動はこれに限らず、後述する度重なる環境変動に対抗して生命は新たな機能を生み出しながら進化を遂げてきた。地球変動は人間を始め、現在の地球生命を生み出す原動力であったといえる。
{注6}:真核生物:単細胞でも細胞小器官を持ち、大きさが10倍位ある。核内にDNAが保護されている。酸素を呼吸する器官があり、有機物を分解しエネルギーを得るミトコンドリアを有するものが動物へ進化し、光合成する器官(葉緑体)を持つものは植物へ進化した。

地球と生命/その進化  その6



<地球と生命/その進化>    荒木泰治

6) 大陸の離合集散と生物の進化

地球の地殻はマルチプレートで構成され、それぞれのプレートはコア部の熱対流によって絶えず移動し、離合集散を繰り返してきた。そういう地殻の活動が生命の進化に大きな役割を果たすのである。

5.5億年前から始まるカンブリア紀にはゴンドワナ超大陸と呼ばれる大陸が赤道付近から南半球に存在した。当時の生物は海洋性無脊椎動物で三葉虫のような眼、硬い殻、骨格を持つ動物が化石として残っている。

5.1~4.4億年前のオルドヴィス紀では、アパラチア造山帯(カナダ~イギリス~スカンジナビア半島)が北側に、ゴンドワナ大陸は南半球に形成され、生物は無脊椎動物で甲冑魚、床板サンゴ、コケムシ、有孔虫などが生息した。又、この時期は酸素濃度の上昇が進み、紫外線を遮るオゾン層が形成されて、コケ類などの生物が陸上進出した時期でもある。

次のシルル紀(4.4~4.1億年前)の末期に海生の脊椎動物が現れ、空気呼吸をする最初の節足動物(大型はサソリ類、小型はダニまで)や、顎のある魚(カブトガニなど)が発見されているが、これらは次のデボン紀で発展する。

4.1~3.5億年前のデボン紀は巨大大陸・ローラシア(アジアとヨーロッパにあたる部分)が形成された時代であった。こういう大陸形成過程では大陸同士の衝突が巨大山脈の形成をもたらし、山脈の形成は雲の流れをさえぎることで、その斜面に雨を降らせ、川を作ってそこに淡水の世界を生み出した。

一方、大陸の巨大化は海岸線を減らし、浅海の減少をもたらす。生物は光合成が可能な浅海に生息していたため、浅海地域の減少は、生物間の生存競争を激化させることになった。

ローラシア大陸形成時には板皮類という魚が浅海の支配者となり、人類の遠い祖先である硬骨魚(ユーステノプテロン)は浅海を離れ、当時に出来た巨大山脈(カレドニア山脈)の麓の淡水世界へ進出した。この進出を支えたのがこの時代に出来た地球最初の樹木・アーキオプテリス(高さ最大20m)などの森林である。

この森林により、その周囲の気温と土壌が安定し、大量の落葉の分解で栄養分の高いエサを生物(魚)に供給した。その反面、落葉の分解は水中の酸素を減少させたため、多くの魚はその環境に耐えるために肺を進化させた。

この淡水域においても生存競争が次第に激しくなり、大型化で生き延びようとする肉食魚(5m超)も生まれた。人類の遠い祖先でもあるユーステノプテロンが進化したアカンソステガと呼ばれる魚は木の枝などが堆積する劣悪な環境に逃げ込むことにより生き延びた。

そこでは早く泳ぐことより、木の枝を掻き分けて移動することが必要で、それが出来るように、前ヒレが進化した手(前肢)を持つようになった。そして、この進化は我々祖先が大陸へ上陸する決め手となった。即ち、陸に上がって最初の脊椎動物である両生類(サンショウウオ、イモリ、カエル等)が生まれる。また、節足動物からは昆虫が生まれた。

3.5~2.9億年前の石炭紀といわれる時期は現在のアメリカ、ヨーロッパが赤道の直ぐ北にあり、広大な森林が形成され、裸子植物が栄えた。その温湿な気候が石炭、石油、天然ガスを生み出したとされる。この時期には陸生動物の痕跡が認められている。即ち、巨大トンボ、ゴキブリ、クモ、サソリなどの化石が発見され、爬虫類はこの時期に生まれたと考えられている。

2.9~2.25億年前の時代はベルム紀(二畳紀)と呼ばれ、全ての大陸が一つになって超大陸パンゲアを創った。南アメリカ、アフリカ、南極、オーストラリア、インドは南極点の近くにあった。このような海陸の配置の変化により生物の生息環境が変化し、浅い多島海で繁殖していた無脊椎動物(三葉虫、サンゴ、コケムシ等)は史上最大規模の絶滅状態となる。
両生類は減少し、爬虫類が繁栄した。爬虫類には後に恐竜を生み出す双弓類と、一部が哺乳類に進化する哺乳類型爬虫類とがあった。植物では胞子で繁殖するシダ類から、種子を持つシダ類(イチョウ、ソテツなど)に進化する。

このベルム紀末期に95%もの生物種が絶滅するという大事件(P/T境界事変)が起こった。その原因はスーパープルームによる火山大噴火だと言われる。{注7}

{注7}:スーパープルーム(スーパープリューンともいう)とは地核から地表に向かう巨大なマントルの上昇気流のこと。
生物絶滅の原因についてはバンゲア形成に絡んだ種々の原因の重なり合いとする説もある。

地球と生命/その進化  その7




7) 恐竜から霊長類に至る進化過程

ベルム紀末期に起こった火山大噴火の痕跡は西シベリアから中央シベリア高原にかけて広く分布する溶岩(シベリア洪水玄武岩)にみられる。この大噴火によって大気中の二酸化炭素が増加し、地球の温暖化が始まった。海水は温度の上昇により、海底に分布していたメタンハイドレートを融解し、その結果、大気中に膨大なメタンガスをもたらした。このメタンガスの温室効果により更なる地球の温暖化が起る。

(画像はガスデハイドレート、下の白い塊りがメタンハイドレート)
この悪循環により、植物が壊滅的打撃を受けたことと、メタンガスが酸素を消費することによって、大気は低酸素状態に陥った。(それまでの酸素濃度が30%以上であったのに対して、この後の1億年近くの間10%程度にも落ち込んだとされている。)

この低酸素環境に優れた適応をして君臨したのが爬虫類から出た恐竜である。恐竜が生まれたのは2億2500万年前とされ、カンブリア紀からそれ迄を古生代と言われるのに対して、恐竜が出現して以後、恐竜の絶滅する6500万年前迄を中生代と称される。

中生代は3時期に分けられ、最初の三畳紀にはカメ、ワニ、魚竜、首長竜、恐竜などが生息し、中でも恐竜が最も発展した。恐竜は後に鳥に継承される特殊な呼吸器官である「気嚢システム」を作って低酸素の中でも高い活動能力を維持した。また、この時期に哺乳類の祖先が出現している。

次のジュラ紀は温暖で安定した気候の時期で巨大恐竜が出現した。低酸素環境に適応進化したのは爬虫類だけではない。哺乳類の祖先は卵ではなくて胎生で子供を生むことと、横たわって母乳を子供に与える独特の生育システムを作ってこの低酸素環境に適応した。胎生は体内で赤血球を噴射して胎児に酸素と栄養を与えることができ、また、横隔膜が出来たことによって肋骨の下半分がなくなり、身体をねじった姿勢で母乳を与えることが出来るようになった。(横隔膜は哺乳類が呼吸効率の改善のために進化させたシステムである。)

こうして、哺乳類は次世代への未来を切り開くことができた。即ち、火山大噴火による低酸素環境が結果として、恐竜と哺乳類を発展させたとも言えよう。

中生代最後の白亜紀は地球のプレート活動の活発な時期で、大陸の大移動が行われ、この時に北米大陸が分離されて、北米は乾燥化が進む(約1億年前)。この時期、被子植物の台頭がみられる。そして、この時期の末期に何らかの原因で恐竜が絶滅する。{注8}

恐竜が絶滅した6500万年前に中生代が終わり、新生代が始まる。それまでは恐竜から身を潜め、日陰者として生きてきた哺乳類の時代が始まるが、そこに現れた哺乳類の敵は空から舞い降りてきた鳥であった。一部の鳥は巨大化して食肉鳥となり、特に北米~ヨーロッパに君臨した巨鳥ディアトリマは哺乳類祖先の天敵として、哺乳類の繁栄を抑えた。

ただ、当時は地球史上最も大陸が四散していた時代であったため、唯一、巨大鳥が存在しなかったアジアで食肉獣が発達・進化し巨大化することが出来た。このアジアで進化した食肉獣ハイエノドントはアジアと北米が陸移動できるようになって北米大陸に渡り、ディアトリマを滅ぼした。そして、このときから哺乳類の時代が本格的に幕を開けたのである。

人類の直系祖先にあたる哺乳類の中の初期霊長類(原猿類として区別されるキツネザル、メガネザルなど)は巨大鳥、巨大獣を避けて樹上に活路を見出した。即ち、新生代の初期は急激な温暖化が進み、森林が巨大化したため、木から木への移動が可能となり、果実、木の実を食することにより、危険な地上に下りる必要がなくなった。そして、霊長類は北米大陸において一大繁栄の時期を迎える。

しかし、超大陸バンゲアから北米大陸が分離されて以来、北米は乾燥化が進み、霊長類は北米から消滅する。以来、霊長類の進化はヨーロッパ、アフリカ大陸に移り、3500万年前にヨーロッパとアフリカにおいて真猿類が出現する。

中新世の末期に当たる約1000万年前、更なるバンゲアの分裂が進み、現在の南極大陸が南米やオーストラリア大陸と分離し、南極点に到達、孤立した大陸となったため、赤道からの暖流が遮断され、地球は次第に寒冷化し、乾燥化した。アフリカの熱帯雨林は縮小、乾燥し、北部が砂漠化した。

このため霊長類はアフリカ熱帯雨林以外では次第に住処と食料を失って、ヨーロッパのサル類達(真猿類){注9}は完全に消滅し、ゴリラ、チンパンジーらはアフリカ大陸東部の南北に亘る森林に留まった。アジア南部ではオランウータン、テナガザルが残る。

アフリカの熱帯降雨林で生き延びた霊長類に起こった進化は“フォベアによる高い視力”の獲得であった。フォベアは角膜の中で視細胞が集中している所であり、その発達により高い視力と色別力(中間波長の感知)でエサを効率的に見出すことが出来た。この眼の進化は豊かな表情を創りだし、お互いの表情を見分けることによってコミューニケーションが生まれ、そこに“共に生きる”社会(群れ)を構築する道筋が出来た。しかし、その後の地球乾燥化の進展による熱帯雨林の縮小に伴い、800万年前にサバンナへ進出した類人猿{注10}は、次第に直立二足歩行をすることによって遠距離を歩いて食糧を求めなければならなかった。

ここに人類の祖先が誕生する素地が生まれたことになる。当地には600~700万年前のこの種化石(オロリン、サヘラントロプス)が報告されている。

{注8}:恐竜が絶滅した原因は未だ確定されてはいないが、巨大隕石の衝突説が有力視されている。それは恐竜絶滅の6500万年前の地層(C/TまたはK/T境界層)に普通の100倍の濃度のイリジュウムと多量のススが発見されている。このイリジュウムは隕石の同位体比に一致している。 この説は1980年科学誌「サイエンス」に始めて発表された。隕石落下地点の候補は陸ではアメリカ・アイオア州、インド・デカン高原、海ではポルトガル沖のトーレが挙げられている。また、メキシコのユカタン半島説もある。

{注9}:真猿類:原猿類から進化した霊長類。一般に“サル類”と言われ、ニホンザルや東南アジア系ではテナガザル、オランウータンなど、アフリカ系ではチンパンジー、ゴリラなどがこれに入る。

{注10}:類人猿:これまでより複雑な脳、大きな体格を持ち、尾がない霊長類(真猿類)で、小形動物を食べることはあるが、主に草食。歯は現代人と基本的に同じ。

地球と生命/その進化  その8


8) 人類の祖先とその歩み

幾度もの大陸の離合、地殻変動と地下のマントルブルーム(火山噴火)の発生は地表の環境に急激な変動を与えてきた。そして、それは地表に住む生物の生存競争を生み、絶滅と進化を繰り返させた。このような過程を経て、約500万年前にアフリカで立ち上がったとされるヒト科の類人猿(猿人){注11}は、
チンパンジーとの共通祖先から分かれて以来、幾多(~20種)のヒト祖先・猿人が枝分かれしながら登場しては絶滅していったと言われる。
その存在はアフリカでの多数の化石で証明され、アウストラロピテックス属として分類される猿人達である。特に重要なものはタンザニアで発見された360万年前の二足歩行の足跡である。

250~200万年前、更に進化したホモ・ハビリスが最初の道具(石器)を使ったことが判っている。
このハビリス原人は前述アウストラロピテックス属とその後に現れるヒト祖先・ホモ属の中間的存在とされる。この時期、ホモ属にあたるホモ・エルガスターとアウストラロピテックス・エチオピクスやパラントロプス・ロプストスらのヒト祖先が並存した。もともとの遠いヒト祖先は樹木生活者で主食は果実であったが、サバンナで主食の変更を余儀なくされたとき、ホモ・エルガスターは肉食を本格化させたのに対して、エチオピクスやロブストスは植物の地下茎・根を主食として採った。

この食物の違いは両者の体型や知能に大きな差を作らせる結果となったと言われる。つまり、人類の脳が巨大化した理由には肉という高カロリーの食料が寄与しているという説がある。即ち、脳は体重の2%しかないのに拘らず、20%のエネルギーを消費する。高カロリーの肉食は結果として脳を発達させるのに役立ったと考えられる。

脳を発達させるその他の要因としては、ホモ属の特徴である拇指対向性に基づく精密把握がもたらす文化(精密石器など)、行動の複雑化、更に言語の発達による脳への刺激が挙げられている。脳容積は猿人の時代での400~450mlから250万年のハビリス原人600~800mlへ、そして、170万年前エレクトス原人の850~1000ml、更に50万年前には1250mlにまで発達している。

人類の重要な進化は脳だけではない。アフリカからヨーロッパ大陸、西アジアへ渡って広く分布していたネアンデルタール人{注12}の脳は1325mlあり、同じアフリカ生まれのホモ・サピエンス{注13}の脳容積とほぼ同じであった。両者は一時期併存したが、ネアンデルタール人は約3万年前に絶滅した。

この両者が明暗を分けた理由は言語能力の差であったとする説がある。即ち、我々の祖先に当たるホモ・サピエンスは声帯の位置が喉の奥の方に発達し、気道が長くなって、喉の中で微妙な振動が出せるようになった。それにより、言葉が色々話せ、コミューニケーシヨンが容易になり、経験や知識を次世代へ伝えることによって効率的な食料の確保が出来るようになったとされる。ホモ・サピエンスは約16万年前にアフリカに生まれ、10万年前に西アジアに入り、4~3万年前から次第に世界全土へ拡散、今日の地球人類を構成しているとする説が最も有力である。

人類祖先の歩みを簡単に記すと以下のようになる。

約500万年前 チンパンジーからヒト科類人猿(猿人)が分岐。(ラミダス猿人)

250~200万年前 ホモ・ハビリス、最初に道具(石器)を使う。

170万年前 人類直系祖先・ホモ・エレクトス(原人)出現。脳の容積は現代人の2/3まで発達(850~1000ml)。火を使う。成人男性の身長は180~150cm

100万年前 エレクトス原人アフリカ脱出。ジャワ原人、北京原人となる。

16万年前  エチオピアで新人(ホモ・サピエンス)の誕生(化石発見)。

10万年前  新人、中東に達し、ネグロイドからコーカソイドが分かれる。

35,000年前 クロマニオン人(新人)、ヨーロッパ大陸に進出。ヨーロッパに先住のネアンデルタール人を滅ぼす。新人、インドに入って、インド人の祖先となる。新人、北へ入ってモンゴロイド、東南アからオーストラリア原住民。

20,000年前 最初の文化、南フランスに。(クロマニオン人の色彩動物壁画)

13,000年前 モンゴロイド、アメリカ大陸へ進出。(氷河期ベーリング海経由)

12,000年前 その一行から、南アメリカ最南端へ到達。 (世界人口約500万)この時期から間氷期に入り温暖化。農耕進み、人口激増始まる。

5000年前  世界4箇所で文明開化。 世界人口約5億で推移。

400~300年前 産業革命、大航海時代。人口再増加始まる。

現在~未来 現在の人口65.7億。21世紀半ばに100億へ。食料不足、資源枯渇、温暖化など大型哺乳類絶滅の危機?

{注11}:ヒト科の類人猿: “猿人”ともいう。完全二足歩行、脳容量400~450mlから進化始まる。

{注12}:ネアンデルタール人:20万年以上前からヨーロッパ、西アジアに存在が確認されているホモ属であるが、現人類の直系祖先であるホモ・サピエンスとの繋がりは否定されている。旧人とも言われて区別される。

{注13}:ホモ・サピエンス:骨は薄く細い、脳は1300ml以上、前頭葉大。現人類の直系祖先で新人と呼ばれる。その前のハイデルベルゲンシスやネアンデルタール人は旧人と言われる。

主な画像はこちらから引用しました

地球と生命/その進化 その9 (完) 荒木泰治 著

9) 総括 ― 地球と人間/その行方 ―

奇跡的とも言える環境条件から生まれた水惑星の地球で、これも偶然に生じたとしか考えられない化学反応によって生命が誕生した。その生命増殖の根本には太陽エネルギーがあり、太陽光に基づく光合成反応によって物質とエネルギーが創り出された。光合成なしには地球上の全ての生物の存在はあり得ない。

この生命は40億年の歴史の中で、地球上で起こった気候変化、火山噴火、隕石衝突などの変動により幾度かの大量絶滅を繰り返しながら、そして又、弱肉強食の生存競争を続けながら進化を遂げてきた。

地球上の生物で植物だけが葉緑素の光合成反応によって、炭酸ガスと水から、自らの栄養分(エネルギー)を、自ら合成できる唯一の生物である。その栄養分を草食動物が食べる。草食動物は肉食動物に食べられる。これら植物、動物が死ねば細菌類と菌類(葉緑素を持たない生物で“カビ”や“きのこ”など)によって分解され、炭酸ガスと水が作られる。

これが地球上で行われている生命サイクルである。人間はこの中にあって、発達した頭脳を駆使することによって、この自然サイクルを制御、或いは破壊できるまでに科学を発達させて来た。

奇跡的な環境の下、その中で偶然に発生したと考えられる地球と人間ではあるが、2000億個もの恒星が輝いていている広大な銀河系宇宙に、他にも人間のような高等生物が存在するのではないかと想像するのは当然である。

それに関して、米国コーネル大学からドレークの式として1960年に発表された。その式は2000億個の恒星をベースに、幾つかの確率と、恒星とその上の文明の寿命に仮定を与えて計算するものである。これによると、この銀河系宇宙には1000のオーダーの文明が存在することになる。

ただ、その文明間の距離が100光年あったとすれば文明の寿命が100年程度だと文明間の交信は出来ず、お互いにその存在を認識できないことになる。

地球人類は今日、宇宙に向けて、その存在を発信・受信できるほどの文明を持てる段階にあり、更に進歩を続けている。さて、この地球上の人間は今からどれだけ持続できるのであろうか?

国、民族、宗教間の対立と争い、目先の利害にとらわれた乱費と乱開発による天然資源の枯渇、そして無節操な排出による自然環境の破壊、人口増加に伴う食糧の危機などが近未来の地球の問題である。これまで育んできた人類の英知が、反面、これからの地球と人類の破滅を速めことになってはならない。

地球の未来について書かれた著書「フューチャー・イズ・ワイルド」によると、これまで氷河期は10万年サイクルで起こっており、その中で約1万年間が間氷期であり、現在がその間氷期にあたるという。(現在の地球は最後のウルム氷河期が明けて既に約1万年経過している。)また、本書は地球の気象変化から、人類が滅んで大型動物の時代が来るとも予測している。

氷河期が来るのが先か、今話題の温暖化が先か、或いは食料、資源の枯渇が先かは別として、近未来の人類にとって難問が幾つか予想される。しかし、人類の素晴らしい英知は必ずやこれら問題を乗り越えるであろうと筆者は信じる。

今世紀の人類の課題は目先の利害にとらわれず、これら地球規模の問題解決のための志向である。その方向としては、地球環境保護の更なる徹底は勿論、致命的大規模自然災害の予知と対策、人工的な光合成技術の開発、更に進んでは、地球外惑星(火星など)の改造を含む宇宙開発の推進などが挙げられる。

以上

主の参考資料

宇宙と生命の起源 -ビッグバンから人類誕生までー:嶺重慎・小久保英一郎共編 (2004)岩波書店(ジュニア新書)

生命と地球の歴史: 丸山茂徳・磯崎行雄共著 (1998)岩波書店(岩波新書)

地球・宇宙・そして人間: 松井孝典著 (1987)福間書店

地球大進化(第1集~第6集): NHKスペシアル 2004年4月~12月放送

人類の進化史: 植原和郎著 (2004)講談社

生命40億年全史: リチャード・フォーティ著、渡辺政孝訳 (2003)草思社

フューチャー・イズ・ワイルド:ドーガル・ディクソン、ジョン・アダムス著、松井孝典監修 土屋昌子訳 (2004)ダイヤモンド社