2011年2月5日土曜日

「岱風句抄」 その3




めっきり冷えて来た揚げてある採集の蝶の額


残暑の土手が高い裸馬尾を振って居る


天葉ばかりの桑畑で紫蘇の実こぼるゝ


水が土に泌み入りコスモスの晴れ


足につめたくあるき新しきたゝみの匂ひ


沖に出る舟小さく見え洲の真菰枯れ




帰りこの道にしよう冬草青い土手


串の公魚かたち揃って干してある湖辺冬来たり


菜の株雨にぬれて畑に積まれあるまゝ


秋夜を戻りし音に馬屋に馬がいななき


人が居ない縁にある木の子の籠  


稲扱機ぐんぐんまはり一隊の小学生通る


    (公魚  わかさぎ)




大根引く土の色黒く風吹き


蓮枯れてお濠の橋長く見し風の日


池の水うすく張りつめ魚少し動いて見える


松の雪おほかた吹落とされ耐寒の一隊登山


雪の中藁乳穂突立ち藁乳穂の影


土を掘り土の匂ひ大根埋める穴


(乳穂:田んぼの稲刈りのあと、稲束を積んだ小山状のもの。

    それを「にお」という。漢字では「乳穂」「堆」「稲積」などを当てる。)
 
 
雪が荒れて来た桑株積んである畠隅


   悼 木染月氏


低い山まだら雪確然穂高の白雪


征く家の日の丸の旗桐の実しっかり


初空雲が流れ信濃山々据わり


水ひかりわさび畑のをばさんわさびをくれる


浮島の水涸れ橋を渡り諏訪大社春宮




日陰たけむら小雪し吉良良周の墓


国債を買ひ芋植ゑる畝が長い


栗咲いたその下の竿へ干した白い服


木立の道乾き下るに日ぐらしがなく


女かうして糸をつむぐ牡丹活けてあり


七夕の色紙がちる地がくらくなる




防火水桶に溢れかたはら露草が咲く


兄弟出征の家棗枝垂れてゐる


秋菜引くこちらへ向いた牛の顔


巌に立ちし霧流れ込む赤松林


古葉重なり栗のつぶつぶをひろって


穂草あるまゝに銃後母の住居




栗の笑んでいる高い木何本か青空


夏夜道へ出てくるひげ剃った男


雨をほしがる話おいらん草動かない花


土手高い空高いひヾく脱穀機 


防空桶を置くまひる虫鳴く


行きぬく気持ち枯草の色青い草の色




あかず小柿をとる子等に風吹き


つるもどきからみ冬山深くて筒鳥


ゆるいづぼんをはき立ってゐる葱畑


木の根っ子雪残り全体平凡な庭


早春川幅を感じ舟へ砂揚げる男


たらの芽を摘む吾思ふ今けふの日

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